1年ほど前、同級生のグループラインにメンバーの女性からある投稿がありました。その内容が、「◯月◯日に◯◯地区で、◯◯に住んでいる◯◯という中東系の男性がテロを企てている。信頼できる知人からの情報なので、その日は◯◯地区に近づかないように」と。
果たして当日、テロは起きませんでした。公安や米軍関係者が映画のように事件をギリギリのところで未然に防いだのでしょうか?
このフェイクニュースは、在沖海兵隊の第7通信大隊のフェイスブックで最初に発信されたことが判明しており、ネット上に保存された画像からは「海軍犯罪捜査局と県警は男が連休中に米軍人を攻撃するかもしれないと忠告している。家族や友人に知らせてください」と、男性の画像と共に呼び掛けていました。
そして実際に米軍捜査官が件の男性の元を訪れ、過激派組織「イスラム国」(IS)の関係者か」と聞かれ、「ビーチにナイフを持って行ったか」など問い詰められたといいます。
フェイクニュース工場がある町
ギリシャの北方に位置する北マケドニア共和国(旧マケドニア)は元々はユーゴスラビアの一部でしたが、同国の解体に伴い現在の国となりました。その地方都市である何の特徴もない田舎の町、ヴェレスがあることで世界中から注目を浴びています。
ヴェレスは「フェイクニュース工場」の異名を持ち、200~300人の若者がフェイクニュース作りに手を染め、多額の広告収入を手にしていると言われています。
若者達から「先生」と呼ばれている、この町に住むある人物の名刺には「トランプ大統領の誕生を手伝った男」と書かれていて、ヴェレスにすむ多くの若者にネット上で広告収入を得るノウハウを教えています。
彼が創作した「歯磨き粉のチューブに印刷されている読取コードの色が、実は、有害物質の含有量を示している」という、このニセ記事は世界中で1億回も読まれ、この1本だけで1000万円を稼ぎ出しました。
またある若者は両親の年収を優に超える金を稼ぎ、その金でイタリア製のバイクを購入。「クラスメイトの4割くらいがフェイクニュースを作ってる」と言いました。日本でいうラインやメルカリをやってるくらいの気楽な小遣い稼ぎ程度の感覚で、罪の意識は全く無いようです。
ちまたにあふれるフェイクニュース
ネットが無かった時代、フェイクニュースはデマという形で広まりました。古くは関東大震災の直後、中国人が井戸に毒薬を入れて回ってるというデマが広がり、多くの罪のない中国人が犠牲になりました。
最近では先のアメリカ大統領選挙で当時トランプ候補の対抗馬だった、女性初の大統領を目指すヒラリー・クリントン候補に関し、ワシントンのあるピザ屋で児童売春が行われており、なんとそこにヒラリー候補が関わっているという荒唐無稽なフェイクニュースが流布しました。しかしこのデマはフェイクニュースに止まらず、それを信じた男性がそこに銃を持って乗り込み発砲するという事件を起こしました。
一方のトランプ大統領はロシア疑惑など、自身に関する不利なニュースは全てフェイクニュースの一言で切り捨てていて、逆に本人の都合のいいように使われている側面もあります。
フェイクニュースを無くすことは可能か
何故これほど簡単に人はフェイクニュースを信じるのでしょう。歯みがき粉や関東大震災、ピザ屋の話なんかは、冷静に考えるとそんなことあるはずがない荒唐無稽な話です。そんなアホらしい話が世界中に溢れるのは多くのメディアや個人が面白がって拡散させるからです。
そして世の中の人々は日々の情報の洪水の中でニュースをきちんと吟味することなく、斜め読み程度の温度で接しています。少なくとも私の場合は。
すると、後に残るのはフェイクニュースに出てきた単語に対する何となくネガティブなイメージと、万が一本当だったら、という気分の悪い残り香だけです。
かく言う私も、冒頭のテロのフェイクニュースを一蹴したにも関わらず、その日はその場所に近づかないでおこうと思いました。
フェイクニュースにそういう本質があるのであれば、このくびきから完全に逃れることは難しいかもしれませんね。
人から受けた善意をその人に返すのではなく、別の3人に返すことで世界はいい方向に変えていけるという「ペイフォワード」という映画があります。
あの映画の逆バージョンとして、各人に回ってきた怪しいニュースや信憑性の低いソースから得たニュースを見ない、拡散させないことで、全体的に被害は軽減させていくことができるでしょう。
ヴェレスの住人のように利益を得るために確信犯的にフェイクニュースを垂れ流す人々に対し縷々とモラルを訴えても何の効果もありません。
世界各国にもまたがる膨大なフェイクニュースメーカー達を法律で取り締まるのにも限界がありますし、どこからどこまでがフェイクニュースかというラインを引くことも現実として困難です。拡散させないことで少しでも弱体化を図るしか、残念ながら道はないでしょう。
さて、テロのフェイクニュースをグループラインに上げた彼女ですが、あれ以来ラインに参加してくることはなくなりました。我々としては彼女が善意からやったことだと十分理解していますので、あまり気にすることはないんですけどね。
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